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平成14年11月29日三番瀬調査研究特別委員会−11月29日-01号
平成14年11月29日三番瀬調査研究特別委員会−11月29日-01号

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  1. 船橋市議会 2002-11-29
    平成14年11月29日三番瀬調査研究特別委員会−11月29日-01号


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    平成14年11月29日三番瀬調査研究特別委員会−11月29日-01号平成14年11月29日三番瀬調査研究特別委員会 [議題] ・ラムサール条約と日本の湿地・干潟について(講義) ・次回の委員会について  ………………………………………………………………………………………………         14時00分開議 △ラムサール条約と日本の湿地・干潟について ○委員長森田則男) 本日の委員会は、ラムサール条約に関して、専門家からレクチャーをしていただくことになった。  そのため、参考人として、WWFジャパン自然保護室主任をされている花輪伸一先生にお願いしたところ、快くお引き受けいただき、「ラムサール条約と日本の湿地・干潟」というタイトルで講義していただけることになった。  本日の委員会の進め方であるが、花輪先生にご講義いただいた後、先生との質疑応答を行う。質疑応答については、懇談的な雰囲気で行いたいと思うので、詰問調になったり、追及するような質疑にならないよう、お願いする。  最後に、参考人及び理事者退室後、次回の委員会について協議したい。    ────────────────── △傍聴について  理事者は傍聴者として入っており、説明員としての出席ではないので、質問等は遠慮願いたい旨、委員長から発言があった。    ─────────────────      [参考人入室] ○委員長森田則男) 私からご紹介させていただく。WWFジャパン自然保護室主任花輪伸一先生である。  先生は、大学・大学院を通して鳥類・哺乳類の生態と保全に関する研究を行われ、79年からは日本野鳥の会に勤務し、絶滅のおそれのある鳥類、シギ・チドリ類などの渡り鳥の調査、保護、環境教育等の活動をなさっていた。  91年からはWWFジャパンに勤務され、湿地保全、沖縄の自然保護地域NGOとの共同に関する活動をされている。
     それでは、本日は、どうぞよろしくお願いいたします。  なお、三番瀬調査研究特別委員会のメンバー14人については、お手元の座席表、氏名札でもって紹介にかえさせていただくので、ご了承願いたい。  また、ご講義のあと、時間の許す範囲で質問等を受けていただければと思うので、よろしくお願いしたい。  それでは、「ラムサール条約と日本の湿地・干潟」と題して、ご講義を賜りたい。    …………………………………………… [講義] ◎花輪伸一 先生  皆さん、こんにちは。WWFの花輪と申します。きょうは、お招きいただいて、ほんとうにありがとうございます。  私は今ご紹介いただきましたように、WWF、その前は日本野鳥の会というところで勤めていて、ずっと環境NGOで仕事をしてきた。大学時代には、鳥──野鳥の研究をやっていて、それの生息する干潟の問題、埋め立てが非常に盛んな時代だったので、その干潟の保全活動にかかわってきている。野鳥の会それからWWFを通して、この干潟の問題は20年近く何らかの形でかかわりを持ってきた。  それからもう1つは、沖縄の環境問題。特に、絶滅のおそれのある鳥の問題、あるいは最近ではジュゴンの問題とか、そういった沖縄の環境の仕事も半分ぐらいやっている。干潟と沖縄というのが、私の専門分野になる。  それでは、きょうは「ラムサール条約と日本の湿地・干潟」と題して、お話しする。  ラムサール条約締約国会議が、実は先週、11月の18日から26日までスペインのバレンシアで行われていた。当初私も行く予定はしていたが、なかなか準備ができなかったりで、今回は行かずにこちらの方で仕事をしていた。環境NGOの方も日本から大分参加されたようで、それから今回はどういうわけか日本弁護士連合会の方々が二十数名出かけられたようである。そういった方々の報告がこれから楽しみなところである。  日本のこの干潟、日本に限らず、実は干潟・湿地は、これまで余り大切にされてこなかった。大概は開発の対象になってきた。それは日本の場合には、非常に山が多い、平地が少ない、浅い水辺、海辺というのが、これを埋め立てることによって、比較的簡単に土地を造成することができる。そういうことで、これまでの価値観としては、湿地・干潟というのが開発の対象として見ていく、こういう時代だったわけである。ところが、最近になってきて、この水辺、湿地あるいは干潟というものの環境の価値とが非常に見直されてきたわけである。その前までは、やはり埋め立て、それから廃棄物を捨てる、それから平気で汚染をしてきた。こういうことで、かなりその湿地・干潟が世界的に見ても減少してきたわけである。  埋め立てと干拓という2つの手法がある。これでもって、浅い水辺を造成してきたわけである。日本では、実は古くからその干拓という手法が使われてきた。有明海なんていうのは、かなり干拓地が広がっている。東京湾でも昔は干拓をして、水田を広げていたところがあったはずである。最近では、もうすっかり埋め立てに変わってしまった。この干拓というのは、遠浅の海に石積み、昔は人力でこう石を運んで堤防をつくっていったわけである。石がないところでは、土を運んでそれを人間が踏み固めていくという手法で堤防をつくっていく。そして、堤防が出来上がったときに、締め切って、海水が入ってこないようにする。これが干拓である。ですから、この中のところは、泥がそのままあるわけである。だんだんこの雨水がたまって潮が抜かれて、ほとんどが水田にする、こういうふうに使われてきたわけである。  人力でやるから、面積は非常に狭かった。しかも、この堤防の外側には、浅い海がそのまま残っていて、川を通じて砂や泥が流されてくるので、また干潟がこの前に広がっていく、いわばこう持続的に水田もできれば干潟もできるというふうに、非常に持続的な利用を昔はしていたわけである。  ところが、近年になって、特に戦後のしゅんせつによる埋め立てが物すごく大規模に行われるようになった。サンドポンプで海底の土砂を吸いとって、これを陸地に上げる、こういう方法を使われているので、護岸が垂直になってしまう。非常に深い水辺になってしまう。そのため、水辺に干潟が再生しにくいという状態になっている。  ここに書いてあるのは、これ伊勢湾の名古屋近辺の昔の干拓の面積と現在の埋め立ての面積を比較してある。これは実は、1651年から1945年、ですからこの名古屋、伊勢湾の奥の方は、300年かけてこのぐらいの干拓がなされた。ところが、戦後になって、これは1947年から1975年、およそ30年の間に埋め立てたのが、この面積である。300年かけて人力でやってきたのが、たった30年で機械力でもってこれだけの埋め立てをしてしまう。非常に環境の改変が大きいわけである。  それから、こちらは諫早湾である。有明海の諫早湾干拓事業。諫早湾に限らず、有明海というのは、もう300年、400年前から少しずつ干拓が行われてきて水田が広げられてきたわけである。こういうふうに、うろこ状にこんなふうに小さく干拓がなされてきたわけである。これが17世紀。それから緑色が18世紀。青いのが明治、大正、昭和。少しずつこうやって干拓をしてきた。そうするとその前には干潟がちゃんと広がっていた。ところが、現在の大干拓、これですね、これまでやってきた干拓と同じぐらいの面積を一気にやってしまう。しかも、ここに潮受け堤防というのをつくって、ここを淡水化してしまう。複式干拓と言っているが、この方法でやると干潟は全部なくなって、潮受け堤防の先に干潟が再生するかというと、何百年かかるかわからない。恐らく、川の上流からの土砂もダムなんかでせきとめられて、干潟の発達するスピードは非常に遅いだろうということで、干潟がなくなってしまうような干拓のやり方だったわけである。こういったことがだんだん反省されるようになってきたわけである。  これは環境省が調べたデータである。一体どれぐらいの干潟が日本から失われてしまったのか。1945年から1978年までの間に、日本全体では、34.8%の干潟が干拓とか埋め立てでなくなった。大体35%ですね。それから、その後の13年間で7%なくなっている。失われている。ちょっと調査方法が違うので、これ簡単に足すわけにはいかないが、大ざっぱに見ると、1945年から五十数年の間に、42〜43%の干潟が失われたことになる。ただ、これ1992年までのデータであるので、その後の諫早干拓で2,000ヘクタール近い干潟が失われている。その他の地域のもあわせると、大ざっぱに言ったら、過去60年で、日本の半分──50%ぐらいの干潟が開発によって失われてきた。こんなふうに見てもいいだろうと思われる。  じゃあ、なぜそんなにたくさんの干潟が失われてきたのか。これは21世紀環境委員会という民間の研究者たちNGOであるが、公共事業で開発される環境にはどんなものがあるのかというのを全国の環境団体にアンケートをして調べたものである。民間のデータになる。そうすると、一番その公共事業で開発されているのは、35%を占めているのが川である。河川。これはほとんどダムである。ダムによって川の環境が開発される。それから続いて、24%を占めていたのが、海浜、干潟である。やっぱり、海辺の開発が非常に大きい。これはやはり埋め立て、土地の造成、あるいは港湾造成、そういったところで埋め立てられている。それから続いて、山林開発ですね。それから湖沼、湖とか沼、それから農地のための開発となっているが、やはり川と海辺が公共事業によっては大分環境が開発されてきたということが言えると思う。  それでは、その開発されてきた、あるいは開発されつつある湿地の中で、干潟がどうなっているのか、特に日本国内ホットスポットとして現在問題になっている場所、どういうふうになっているのか、これを三番瀬と比較しながら見ていきたいと思う。  まず、南の方から、沖縄県の泡瀬干潟というのがある。これは沖縄市の海岸部、東海岸で、太平洋側に面した側に広がっている非常に広大な干潟である。ここの干潟は、やはり亜熱帯の地域だけあって、サンゴ礁のかけらがごろごろしているところ、それから砂地のところ、泥のところ、それから海草が広がっているところ、非常に多様性に富んだ環境になっている。いろんな多様性に富んだ環境があると、そこに住む生物もたくさんいて、非常に豊かな環境になっている。しかも、渡り鳥もたくさんやってくるというところであるが、残念ながら、ここでも開発計画があって、ちょっと小さくて申しわけないが、この干潟の前に人工島をつくるという計画があって、実は先月の初めに着工されてしまった。  180ヘクタールぐらいの人工島をつくる。もともとは陸から埋め立てる、地続きで埋め立てるという計画であったが、海岸線の環境を保全するためと称して、わずか100メーターぐらい沖合いに出して、これで海岸線は保全されたというのが、事業者側の見解である。そして、180ヘクタール埋め立てて何をつくるかというと、ここに人工ビーチができる。それから大型のリゾートホテルが幾つかある。それから公共用施設が幾つかある。これ、だれが考えても成り立たない計画だというのは、もう実は沖縄の方々もわかっている。わかっているけれども、建てられた計画、公共事業はもうとまらないという、実に悪い例になっているわけである。  こちらの方ではとまるんですよね。三番瀬に関しても、藤前干潟に関しても、そこにかけるコストと、そこから得られる利益がどのぐらいかというのを考えて、開発しない方がいいという場合にはもうとまっちゃうような時代になっている。ところが、残念ながら沖縄ではまだとめられない。  まあ、環境を損なうのはもうわかっているので、そのための代償措置として、失われる海草の藻場を人工的に移植する、それからクビレミドロという絶滅のおそれのある藻、海草の仲間があるので、それも人工的に養殖してふやす。それからもう1つは、人工干潟を一部に造成する。こういう代償措置、ミティゲーションをやるということで、この工事を強引に進めたわけである。  ところが、実はこの泡瀬地区の北の方に、新港地区というのがあって、そこも既に埋め立てられて、草ぼうぼうである。それから最近は、那覇の南側の方にも豊崎地区という埋め立て地をつくって、今造成しているが、果たして土地は売れるのかどうか、恐らく売れない。とにかく、埋め立て工事をすることが目的、これによって当面土建の方々にお金が動く、それしかもうないということである。とても残念な開発が進んでしまっているわけである。  それから、皆さんご存じ諫早湾干潟。最初は、非常に豊かな日本で最大の面積、2,000ヘクタール近い面積、浅いところも入れると4,000ヘクタールぐらいの非常に豊かな海が広がっていたわけである。ところが、それを潮受け堤防で締め切って、干潟がひび割れになって、累々とこの貝が死んだ。ハイガイという貝で、研究者が推定したところ、1億個体ほど死体があるということである。1メーター四方に何個あるかというのを何カ所もやってみて、平均値をとって、全体の面積に掛け合わせて、1億個ということである。  このハイガイというのは、実は縄文人の貝塚から一番たくさん出てくる種類である。日本の貝塚で一番多いのは、このハイガイの貝の殻が出てくる。縄文時代からこの貝は人間の食べ物になっていたわけである。  それが今はひび割れもすっかり雨で流されて、草ぼうぼうの土地になっている。現在、その干拓面積は予定の半分に減らした。農水省の計画では半減させた。しかしながら、半分にしたけれども、そのかつての干潟だったところは干拓する計画なので、干潟は復元されない。それから潮受け堤防を決して開かない。淡水化を決してあきらめないということなので、干潟が復元する可能性は、農水省の計画だとゼロということになっている。  そして、この土地で何をするのか。最近では減反を見直そうという声も出てきたが、干拓を進めているときには、もう減反で米はつくれないから、牧場をつくるんだ、ジャガイモをつくるんだということで進めているわけである。一番の目玉はジャガイモ。北海道がジャガイモの大産地であるが、北海道のジャガイモは夏しかできないよ、ここなら冬でもジャガイモができるんじゃないかということで、ジャガイモをここでやるんだそうだが、経済学者の話では、こんなところで冬場にジャガイモをたくさんつくったら値崩れするだけだから、やめた方がいいということである。  これは、福岡県の博多湾である。福岡市の周りにある海である。博多湾も沿岸がずっと埋め立てられてきて、湾の3分の2ぐらいが人工海岸になっている。自然海岸が残っているのは、湾の西の端と東の端。東の端には和白干潟という、ここも三番瀬と同様に渡り鳥がたくさん来て、魚貝類が非常にたくさんとれた干潟がある。  その前に、福岡市は人工島をやはり計画した。401ヘクタールの埋め立て地である。この人工島、今もう輪郭ができて、3分の1ぐらいはもう埋め立てが進んでいるが、ちょうど湾の奥にふたをしたような形になったので、海水の流れが非常に悪くなってしまって、干潟がだんだん汚くなってきた。潮の干満で、潮流で、有機物が流されていくが、停滞して、非常に悪い状態になっている。ちょっと掘ると、すぐに真っ黒になっている。酸素がないという状態になっている。貝類も少なくなってきた。渡り鳥も少なくなってきたという状態になっている。この人工島の埋め立て地、これも造成した後でどれぐらい売れるのか、ペイするのか、はっきりしなくなってきて、第三セクターがやっているが、この第三セクターに対して福岡市内の銀行が融資をしないというのをもう既に決めている。福岡市としては、恐らくは国の援助をよっぽど引き出して、巨大な造成費を賄おうと考えているみたいである。  ここの和白干潟に関しては、ラムサール登録地にしようという動きは実はある。そして、三番瀬よりもちょっと先行していて、後で話すが、ラムサール条約にするためには、その前に国設の鳥獣保護区にする必要がある。その国設鳥獣保護区の設定作業がようやく終わって、この和白干潟は国設の鳥獣保護区になる。うまいぐあいにこの開発予定地を避けて、鳥獣保護区にしている。やはり、この辺は知恵を働かせてというか、いろんな規制があるので、その合間を縫ってというか、福岡市も埋め立てができれば、あとはラムサール登録してもいいんだという考えを持っていて、ラムサール条約会議オーストラリアで行われたときに、福岡市の職員も何人か会議に参加していた、そういう実績があるわけである。もう、福岡市の町のすぐそばの干潟だから、この周りで育った人は、子供のころはここで海水浴をして、晩ご飯のおかずをここでとってという経験を皆さんしていたが、だんだん海水浴ができなくなり、貝もとれなくなり、非常に残念がっている。  これは、同じ福岡県の北九州市にある曽根干潟というところである。これは、瀬戸内海の周防灘というところに面したところである。ここも三番瀬と同じように埋め立て計画があった。周防灘開発構想というその構想のもとで、北九州市がこの干潟を埋めて、工場用地とか何かに、あるいは流通基地、そんなものを考えていたわけである。そして、実はこの沖合いに、新北九州空港の造成が今なされているわけである。それとつなげてここを埋め立てて、後背地にして利用しようという計画を持っていたわけである。しかし、やはりここの干潟も非常に生産性の高い干潟で、たくさんのアサリがとれたり、魚もとれる、渡り鳥もたくさんやってくるということで、市民の中からも埋め立てるべきではないという声が上がってきたわけである。  そして、北九州市はそれじゃあどうするか。まずはきちんと環境調査をしようということで、ここの底生生物、それから渡り鳥について調べてみた。調べてみればみるほど、日本だけじゃなくてアジア地域でもこれは非常に重要な干潟なんだということがわかってきた。というのは、中国で繁殖して韓国、日本、台湾で越冬するズグロカモメというカモメ、これは谷津干潟にも1羽とか2羽来るが、世界じゅうで1万羽ぐらいしかいない鳥が200羽近くここに越冬に来る非常に重要な場所だというのが、鳥をつかまえて足輪をつけて離した結果、わかった。そういう結果をもとに、北九州市ではこの干潟を保全しようと。干潟全体の84%は保全する。残り16%は開発のために保留しておくという決断をしたということなので、この干潟は比較的ハッピーな結果に終わったわけである。  本当にじゃあ科学的に重要なところだから守ろうとしたのかというと、それも当然あるが、埋めてもペイしないというのが、北九州市の計算ではわかっているはずである。ですから、そこをうまく科学的な調査をやった結果、保全するというふうにうまく切り替えていったというところである。  これは大分県の中津干潟。同じ周防灘に面しているところであるが、非常に広大な、1,000ヘクタールを超える干潟がある。東京湾の千葉の盤洲、木更津市近辺の干潟も非常に広大なものがあるが、それと匹敵するぐらいの広い干潟がここに残っていて、そして漁業組合もしっかりしていて、漁をやっているというところである。  ところが、この中津市の海岸、全部コンクリートである。ここは緩傾斜、階段状の緩やかな護岸になっているが、これ以外の海岸は全部垂直護岸で、市民が海辺に行こうと思うとこういう海岸、あるいは垂直のところのはしごをかけて降りる。そういうことしかできない。ただ1カ所だけ、200メーターぐらい自然のままの海岸線が残っていた。ここのところどうしようかという議論になって、三番瀬の円卓会議のミニ版というか、地権者、それから地域住民環境団体学識経験者市会議員、そういう方々を集めて円卓会議を開いて、3年かけてどうしようか、これ議論をした。  地権者の方々は、自分の土地が波で削られるから、もう堤防を伸ばしてくれ、そういう陳情を何回も県に行っていった。この後ろに水田があって、その水田の持ち主たちは、何年に1回か洪水になるからきちんと堤防をつくってくれ。でも、環境団体の人たちは、ここしかもう残っていない。しかも、ここの干潟にはカブトガニとかあるいはアオギズとか、絶滅のおそれの高い種類、魚とか、そういったものがいるし、渡り鳥もたくさん来るので何とか保全したい。そこで議論を重ねて、結局どうなったかというと、これはこのまま残すという決定になった。そして、国土交通省が土地を買い上げて、堤防はセットバックする、こういうことが今決まりつつある。まだ予算化されていないので、表には出ていないが、来年あたりはそれがはっきりすることになると思う。  やはり、国土交通省と大分県土木事務所、それから市民団体、中津市、そういった行政と民間が3年も話し合いをしていい結論にいった。その次は、表の干潟をどうしていくんだという議論に次に入っていくことになる。こんなふうに、行政の方と民間の方、一緒に干潟に出て、現地視察をして歩くわけである。そうすると、やはりその地元の方は、自分が子供のときはここがどんな様子の干潟で、どんな貝をとって、どんな楽しみ方があったんだという話をしてくれると、やはりみんな非常に愛着がある。土地の干潟。そういうところを何とか自然を生かして活用できないか、そういう意味で、この中津干潟というのは非常にうまくいった例だと思う。  それから、これは吉野川河口干潟。これは河口が1,300メーターぐらいあって、恐らく日本でも1番か2番ぐらいの大きな河口である。しかも、その河口に港がない。ですから、砂州が残っている。港があると、しゅんせつして全部とってしまうから、河口の干潟というのは日本でもほとんど絶滅してしまった。なくなってしまった。実は、もっとこう広がっていたらしいが、大阪で万博があったときに、ここの砂とってみんな売り払っちゃったらしい。それから上にダムが1つできたら、砂の供給がとまっちゃって、砂州が太らなくなってしまったということがある。  そして、ここの河口には、残念ながら既にここに沖の洲という埋め立て地ができている。それから、ここに橋を1本かける計画がある。それから、ここに四国横断自動車道の計画がある。こんな狭いところに2本の橋の計画がある。これが環境にどういう悪影響を与えるのかということが非常に心配されている。しかも、この橋は、非常に橋によって影響を受ける面積というか、影響は大きいが、橋の面積が非常に狭いものだから、環境アセスメントの対象にしませんということで、環境影響は調べられていない。環境影響予測に関する調査はちょっとやったみたいであるが。  ここは、実はラムサール条約の登録地ではないが、シギ、チドリ類重要棲息地ネットワークに入っているところである。そういう場所に、2つの橋の計画があるので、地元の環境団体、それから計画事業者である県との間で話し合いが行われたり、シンポジウムが行われたりしている。いいのは、このNGOが、環境団体シンポジウムをやるときに、県の人も来て、ちゃんと県の計画を説明する。そして、それに関して議論をやっていくという手法がとられているわけである。ただ、もう今年度中にも着工というような話になっている。  これは、名古屋市の藤前干潟。ここもごみ埋め立てによって、干潟が全部失われるという計画がずっとあったわけである。ところが、やはり市民運動でこの干潟を保全したい、これが非常に盛り上がって、日本国内だけでなく、オーストラリアあたりからも相当保全すべきだという手紙が名古屋市長に寄せられている。そして、名古屋市の市民の中からも、保全したい、そしてごみで埋め立てるならば、自分たちのごみは自分で減らそうという運動が非常に始まってきて、最終的には市長さんが非常事態宣言を発して、ごみをなんとか減らさなきゃということで、何とか保全の方にいった。環境省もかなり圧力をかけたというのがあるが、もう名古屋市はごみであふれるんだ、ここに処分場をつくらなければという新聞折り込みを出していたのが、1年後にはごみが10%減りましたという、そういう努力がなされた。そして、その結果、ラムサール条約登録地になって、先週のラムサール条約会議で認定証をもらってきているわけである。松原市長さんも埋めなくてよかったというのははっきりおっしゃっている。  名古屋市は、実は自然海岸はもうゼロである。全部コンクリートで固められている。そして、テトラポットが並べられている。かろうじて降りていけるのが、この藤前干潟だけだったわけである。  これは、国会議員の方々が現地視察に行って、裸足で干潟に入って、いろんな生き物を見ているところである。こういったやっぱり国会議員の方々の視察や意見も非常に保全に役に立っている。  それから、これは同じ愛知県の三河湾にある汐川干潟というところである。ここも非常に豊かな干潟である。干潟の沖の方には、もう既に埋め立て地ができて、倉庫や港ができて橋もかけられている。幸いなことに、こっち側の干潟の方の埋め立ては、かなり前に中止になっている。  そして、じゃあこれも国設鳥獣保護区にして、ラムサール条約に登録しようという動きがあるが、ここは豊橋市と田原町にまたがっていて、豊橋市は非常にラムサール登録に熱心であるが、田原町の方は残念ながら後ろ向き。そういうものに指定されると、何も開発ができなくなるんじゃないかという心配があるのでやりたくないということで、開発計画がないので幸い干潟は現存しているが、もっと有効な活用を考えた方がいいのではないかと思って、我々も働きかけたりしている。  それからお隣、習志野市の谷津干潟ですね。ここも昔は埋めちゃえということで、臭いし汚いしということだったわけである。ところが、ラムサール登録地にしたことによって、谷津干潟自然観察センターはでき、そこにレインジャーを配置して環境教育が行われる。非常に国際的にも有名になっていくわけである。渡り鳥もたくさん来るということで、習志野市はオーストラリアのブリスベン市と姉妹湿地の縁組みをして、毎年6月でしたか、谷津干潟の日をつくって、オーストラリアへの湿地を訪れるツアーも企画したりしているということで、埋めて住宅地か何かにしてしまえば、恐らくそれで終わったけれども、残して国際交流をすることによって、習志野市という名前を世界に広めたわけである。非常に有効な使い方をしたんだろうと思う。市民にとっても、バードウオッチングができたり、学校教育の場として使ったり、まさに賢い利用だということができるわけである。  それから三番瀬、これがどうなるのか。まあ、ようやく埋め立てはしないという合意がとれたわけである。皆さんご承知のように、円卓会議をつくって、これからどうこれを活用していくのか、もういろんな利害関係者がいるので、思惑がいろいろある。1坪たりとも埋めてはいけないという方もいれば、やっぱり地権者の方は、自分の土地をどれだけ有効に活用できるか、これが大事だし、漁業の方は、何とか魚がとれるように、ノリと貝ですね、うまくいくようにということを考えている。それがなかなかうまく話を持っていかなければならないけれども、なかなか難しそうだなというのが、周りから見ている印象である。皆さんもやはり三番瀬をどうするのかというのが一番の関心なんだろうと思う。  それから、ちょっとまたつけ加えておくが、実は人工干潟というのが非常に話題になっていて、かくしで幾つかの例がある。私が見てきたのはこの4例であるが、広島市内に五日市というところがあって、ここでは干潟を埋め立てた。これは埋め立ての堤防である。この左側にずっと埋め立て地が広がっている。昔は干潟だった。その干潟を埋めたので、こっち側に人工干潟を造成した。25ヘクタールの人工干潟を造成した。42億円かかっている。それから、毎年メンテナンスをするので、5000〜6000万円かかっている。ところが、砂を持ってきて、こうまいて人工干潟をつくったが、その砂の重さで地盤沈下を起こして干潟が沈んでしまっている。それから、台風がやってきて砂が持っていかれてしまった。それで、今は全面改修でかなり規模の大きい工事をやっている。非常に25ヘクタールという狭い面積にもかかわらず、物すごいお金がかかるということである。  それから、これは葛西海浜公園の西渚。ここも人工的に造成して、ここは人々の憩いの場になっているわけである。東渚の方は立ち入り禁止で、自然のままに野鳥がたくさんいるようになっている。  それから、これは大阪湾の南港。そこに野鳥公園、これも埋め立て地に造成したものである。それからこれは東京港野鳥公園、同じように埋め立て地に造成して干潟をつくっている。  4つの特長は、干潟を復元したが生物は非常に少ない。量的にも種類も少ないということである。そして、葛西の場合には、時々大量に死んだりする。これは、大雨で真水が流れ込んだりすると、貝類が死んでしまうということがあるので、非常に人工干潟というのは、狭いけれどもお金がかかる。しかも、生物の多様性が低くて、なかなか生き物がふえないという、それだったら自然の干潟を残す方が賢いのではないかという結論になるわけである。ただし、もうすっかり埋め立てちゃって、全部垂直護岸で、干潟の「ひ」の字もないようなところだったら、やっぱり人工干潟をつくって、漁業にも役立つように、それから人々にも憩いの場を提供する、そういうことは必要だと思う。  干潟の大切さというのが、ラムサール条約でも、干潟を守るための背景として、なぜ干潟が重要なのか、こういったことが言われている。1つは生物多様性。これはブラジルのリオサミット以来、生物多様性という言葉か、かなり環境の面ではキーワードとして使われているわけである。いろんな生き物がたくさん住んでいるということである。それからいろんな生き物がいる。それは、とりもなおさず、いろんな遺伝子を持っている。それからいろんな住み場所があるということで、遺伝子、それから生物の種、生態系、それぞれ多様である。その多様性というのは、なぜその多様性が大事なのかというと、1つはいろいろな資源としての価値である。昔というか、今でもそうであるが、食料としての価値、それから着る物をつくったり、何か物をつくったりする材料としての価値、そういった価値があるし、最近では薬──薬品ですね、いろいろな微生物の中から薬品を探し出す、そういう価値が無限にあるということである。干潟の泥をとって、中の生物、その遺伝子なんかをおそらく調べている製薬会社というのが結構あるんだろうと思う。  それから、干潟はやはり漁業振興にとって非常に重要である。干潟では魚貝類がとれるし、稚魚が育っていく。魚の揺りかごである、干潟は。干潟と藻場は、魚にとって非常に重要で、そこを保全することによっては漁業振興が図られていく。それが重要なところである。  それから、水質を浄化する。陸からの汚れを干潟の生き物がきれいにしていく。この水質浄化というのは、我々は長年気がつかなかった、あるいは過小評価していた。干潟が水をきれいにしているんだということを。  それから、渡り鳥がやってくる。渡り鳥も1つの資源である。昔は食料として非常に重要だった。今みたいに少なくなってしまうし、食べ物も野性のものをとらなくても大丈夫な場合には、もう食料にはしないが、そのかわりに教材として鳥類、渡り鳥を扱うようになっている。  環境教育では、干潟では自然や生物について理解するための非常にいいフィールドになっているわけである。特に、総合学習の時間ができるようになってから、この干潟で勉強することが非常に多くなってきた。いろんな生物がいるということである。生物の多様性。  それから、漁業資源として、この干潟の保つ価値というのははかり知れないものがある。  そして、浄化作用があるということである。陸域から、我々の生活雑排水が川を通じて流れ込んでくると、バクテリアがそれを分解して、プランクトンがそれを食べ、ゴカイとかエビ、貝、あるいはカニ類がそういった汚れをきれいにするわけである。そして、それを今度は鳥がやってきて食べる。あるいは人間がやってきて、魚や貝類を収穫する。そして、それがもう1回陸に戻る。人間も鳥も、干潟から食べ物を持って陸に上がって、そこでまた排泄して、それがまた川を通じて干潟に戻る。  ですから、実は江戸時代の東京湾というのは、物すごい一大循環型都市だったわけである。江戸前の魚貝類を漁師がとって陸に上げて、陸で消費して、郊外からやってくる野菜類と一緒に消費されて、その汚れがまた川を通じて海に戻る。物すごい巨大な循環システムがあったわけである。  それで、その干潟の浄化能力を汚水処理場と比較するとどうなるかというのを、国の研究機関の研究者たちが調査したことがある。三河湾の一色干潟というところで、面積にして大体10平方キロメーターを想定する。そうすると、その10平方キロメーターの干潟で水がどのぐらい浄化されるかというのを、活性汚泥の下水処理施設と比較してみたわけである。そうすると、10平方キロの干潟があると、1日最大処理量というのは75.8立方メーター、これだけの水が1日に処理できる。その水というのはどのぐらいかというと、10万人の処理人口に匹敵するだろう。10万人分の水が浄化できる。どのぐらいの広さかというと、25.3平方キロ。このぐらいの広いところの汚水が処理できるんだということである。  それに匹敵する下水処理場をつくるとなると幾らかかるのか。年間維持費とか下水を引く費用とか、全部込みにして計算すると、878億円という計算が出来上がっている。ですから、10キロ四方の干潟があることによって、下水処理施設878億円に相当する。こういう計算結果が出されているわけである。これを我々は長年気がつかなかった。干潟で汚れがきれいにされるということが。  それから、渡り鳥。国境を越えてやってくる渡り鳥というのは、それぞれの国が責任を持って守るべき資源だということで、特に日本の場合には、アラスカとかロシアの北極圏で繁殖をして、オーストラリアで冬を越すようなシギ・チドリ類、ホウロクシギとかトウネン、これ三番瀬にも来るが、カラスぐらいの一番大きなシギ、スズメぐらいの一番小さなシギ、こういった鳥が、渡り鳥の飛行経路があって、そこを季節的に飛んでいるわけである。いわば、三番瀬のようなところは、国際空港に相当するわけである。渡り鳥の国際空港ですね。ですから、その渡り鳥の国際空港がだめになるというとどういうことなのかというと、成田空港を閉鎖したのと同じような意味合いがある。当面は、じゃあ羽田に逃げよう、名古屋に逃げようということで短期的にはどこかへ行って進むわけであるが、長期的に考えたら、資源がなくなるわけだから、鳥の数というか、飛行機の数を減らさなければやっていけなくなる、そういうことになるわけである。  シギ・チドリ類というのは、くちばしが短いものから長いものまでいろいろいて、これは干潟の生物をつまみ上げる、この方法と密接に関連して進化してきたわけである。くちばしの長い鳥というのは、カニの穴にくちばしを差し込んで、下の方にいるカニを引っ張り上げる。それから、くちばしが非常に短いチドリ類は、干潟の表面にいる小さな生き物をつまみ上げるという、こういう方向を進化させてきたわけである。  こういった干潟というのは、実は見れば見るほどおもしろい素材であって、総合学習の時間でも、子供たちが大喜びで干潟に入って、泥の中の生き物を引っ張り出して、それを図鑑と合わせながら調べてみる。そして、鳥を見て、その鳥たちは実は遠く海外からやってくるんだ、自分の郷土の干潟が国際的な性格を持っているんだということを理解していく。そのためにも、干潟というのは非常にいい教材になっているわけである。  それから、バードウオッチング、趣味としてのバードウオッチング。なかなか、私もそもそもバードウオッチングが好きで環境問題に入ったようなところがあるので、鳥を眺めるおもしろさというのは、本を読むとか、あるいは映画を見るとか、それとももっとちょっと違った野外に出て、ちょっと図鑑を調べるとか、そういう知的なところもあるということで、非常に楽しいものだなと思っている。  ただ、この職業についてから、もうバードウオッチングに行くということがほとんどなくなって、こういうところを見て鳥を見ていると、今度は何に反対してるんですかと聞かれる。  反対もしているが、反対運動だけでは環境が守れる時代じゃない。特に、今我々が重視しているのは合意形成である。環境を守りたい人と、環境を開発したい人と、そこに利害関係を持つ人が話し合いをして、どうやったら一番お互い納得できて、合意を形成して、開発をするにしろ、保全をするにしろやっていくのか、その話し合いが一番重要だというのがようやく気がついてきたわけである。今までは何でもかんでも反対、反対ばかりやってきたが、それじゃあもうらちがあかないし、でも日本人は話し合いが下手だというのは、自分自身やってみて、よく、つくづくわかる、それは。特に、利害が対立する人との間では、なかなか腹を割って話す、そこまで行くのが、まず時間がかかる。お互い信頼し合うまでにちょっと時間がかかる。ちょっとしたことで信頼関係が崩れると、もうそれでおしまいということが非常に多くて、なかなか難しい。  ラムサール条約に入る。ラムサール条約というのは、どんなもので、どんなふうにいいところがあるのかということをこれから考えていきたい。  ラムサール条約というのは、これ1971年にイランのラムサールで作成・署名されたのでラムサール条約と言っている。国際条約の場合には、最初に署名された町の名前を条約の名前にするという習慣がある。ですから、例えばワシントン条約というのは、絶滅のおそれのある動植物の貿易に関する条約というのがあるし、ボン条約というのは、ドイツのボンで結ばれた、これは移動性動物の保護に関する条約ですね。ですから、地名だけのラムサール条約というと、何だかよくわからない。ラムサール条約って。我々も最初ラムサール条約というのを使って、ラムサール条約を普及するためにラムサールの集いというのをあちこちで開いたが、ラムサールの集いなんていったら、イラン人がいっぱい集まってくるからやめた方がいいよなんて言われたりした。当時、テレホンカードを売っているイランの人がたくさんいたものだから。  正式な名前は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約というのが正式な名前になる。だれもこれ覚えられないから、もうラムサール条約と一口で言う。  そして、その条約の目的は何なのかというと、国際的に重要な湿地の保全と適正な利用ということである。保全と利用、両方が目的だということである。守るだけじゃない。利用しようという条約である。71年にできて、1980年に日本が加盟した。現在2002年の11月、全部で133カ国がこの条約を結んでいる。かなりの数の国が参加しているということである。  そして、この条約の中では、登録地を最低1カ所登録して守らなければならない。それが世界じゅうで今は1,229カ所ある。日本は13カ所。少ない方である、どちらかというと。イギリスあたりは100カ所近い登録地を持っているので、それに比べたらちょっと少ない。  ラムサール条約でいうウエットランド──湿地であるが、ウエットランドという言葉を使っている。何がウエットランドなのかという定義がなされていて、それは1つは湿地、あるいは湿原、河川、湖沼、干潟、浅海域、マングローブ林、それから冠水森林──水浸しの森林、あるいは泥炭地、そういう自然のものから、それから水田、塩田、養殖池、貯水池、ダム湖、こういったものも条約の対象になるウエットランドである。自然のものだけじゃなくて、人為的にできたものもその対象にするということである。それから、浅い海というのは、藻場も当然入るし、サンゴ礁も入る。定義では、干潮時に6メーターより浅いところという定義がなされている。  そして、そのウエットランド、湿地をどうしようかというと、キーワードはこの賢明な利用、ワイズユースというのが、ラムサール条約のキーワードであって、湿地を賢く利用しなさいというのがラムサール条約の精神である。賢く利用するというのはどういうことかというと、生態系の自然特性を変化させない方法で、人間のために湿地を持続的に利用すること。自然環境を壊さないで、人間が持続的に利用するということである。ですから、干潟で魚をとって生計を立ててきた。そうしたら、そこで魚がとれるという特徴を変えないように、壊さないようにして、それを将来の世代、子供や孫に伝えて、そこで経済的な利益を得なさいというのが、この賢明な利用である。  そしてその条文、皆さんのお手元に条文のコピーをお配りした。このラムサール条約の条文を見ておもしろいのは、非常に短いということである。1冊の本になっちゃうような条約もあるが、ラムサール条約に関しては非常に短い。この条文、読みましょう。  「締約国は、人間とその環境とが相互に依存して いることを認識し、水の循環を調整するものとし ての湿地の及び湿地特有の動植物、特に水鳥の生 息地として、湿地の基本的な生態学的機能を考慮 し、湿地が経済上、文化上、科学上、及びレクリ エーション上大きな価値を有する資源であるこ と」。  経済的、文化的、科学的、レクリエーション上重要なんだということである。  「及び湿地を喪失することが取り返しのつかない ことであることを確信し、湿地の進行性の侵食及 び湿地の喪失を、現在及び将来とも阻止すること を希望し、水鳥が季節的移動に当たって国境を越 えることがあることから、国際的な資源として考 慮されるべきものであることを認識し、湿地及び その動植物の保全が将来に対する見通しを有する 国内政策と、調整の図られた国際的行動とを結び つけることにより確保されるものであることを確 信して、次のとおり協定した」。  これが前書きなわけである。そういう前書きの中で、先ほど言ったような湿地の定義がなされている。  そして、締約国は、最低1カ所登録地を指定しなければならない。そして、その登録地については、環境管理計画を作成して、懸命な利用を図らなければいけないということになっているわけである。  そして、重要なのは、登録湿地だけを守れとは言っていない。登録湿地及び登録されていないけれども、重要な湿地についてというふうに中に書かれているので、あらゆる湿地について保全策を立てなさい、それぞれの国が環境管理計画を立てて、賢い利用を図れといっているわけである。そして、環境の変化をモニタリングして、報告しなさい。自然保護区も設置・推進するようにしなさいと、それから幾つかの国にわたる湿地については、国際協力で保全しなさい、こういうようなことが書かれているわけである。  ラムサール条約の歴史を見てみると、最初はやはりヨーロッパで始まっている。1960年代にヨーロッパの幾つかの国々で、湿地と水鳥を守る国際会議が開かれている。そして、環境NGOが最初始まっている。国際水禽調査局という名前の、これ民間団体であるが、ここが水鳥とその生息地である湿地を守るための方策が必要だということで、毎年のように会議を開いている。そして、そこに政府関係者や科学者が入ってきて、どうやっていったらいいのかという議論がなされて、大体1960年代の後半ぐらいにまとまりかけたが、ワルシャワに、当時のソビエトの軍隊が入ったりして会議が飛んじゃったりして、一たんブランクがあるが、その後、71年になって条約が作成されて、署名がなされた、こういう歴史があるわけである。ですから、ラムサール条約というのは、民間の環境NGOが最初リーダーシップをとって、政府がそれに乗ってきたという経緯があるので、成り立ち上、NGOの関与が非常にしやすい。むしろ奨励されている。ですから、私のWWFとか、そのほか幾つかの団体は、条約事務局からパートナーシップを認められていて、いろいろなところでアドバイスをしたり、あるいは逆に、募金等で協力をしたりとか、そういう条約とのパートナーシップというのが、NGOが非常に大きな関与をしている条約であるわけである。  1980年に第1回が開かれてから、1993年に日本で、釧路で第5回が開かれている。そして、現在が第8回、スペインで開かれた。おおむね3年に1回、最初は少しずれているが、現在では3年に1回持ち回りで開いていくという条約の形態になっている。  最初の締約国会議は200人か300人ぐらいの参加者であったが、だんだんふえてきて、釧路のときには1,000人を超えていた。そして、オーストラリアで700人ぐらいまで減って、コスタリカでまた1,000人ぐらい。スペインでは何人だったかまだ聞いていないが、大体1,000人前後の国際会議というふうに見ることができる。  これが93年の6月に釧路市で行われたときの会議の様子である。このときは、100カ国弱ぐらいの参加者があって、環境NGOが入って、それから報道機関が来てということなので、釧路市はわざわざそのためにウエットランドセンターというのを、湿原センターというのをつくった。実は1,000人ぐらいの人が1週間ぐらい滞在するというのは、これかなり経済的に大きなメリットが地元に落ちるわけである。ホテルがその期間、ほとんど満杯になるから。そして、釧路市としては、やはり釧路湿原を観光で売り出していくためには、自然公園、国立公園にする。それから、やはりラムサール登録にして、世界的な関心を呼び寄せよう、世界からのお客さんを集めようというねらいがあって、かなりの投資をして、年間何回かやはり国際会議が開かれているわけだし、この国際会議場のちょっとそばには、フィッシャーマンズワーフみたいなものがつくられている。魚介類のレストランが。そういうもので地域起こしを図っている。地ビールもたくさん何かいろんなのがあるみたいである。  釧路市だけが実は有名になってしまったが、その隣には久城町というのがあるし、標茶町というのがあって、あるいは阿寒町と、釧路湿原を取り巻く市町村というのは結構たくさんあるが、それぞれの市町村が、やはりこれほど大規模なものではないが、小さなビジターセンターをつくって、そこに解説員を置いて、釧路湿原のラムサール登録の意味を説明している、いろいろな調査研究も行うということで、釧路湿原を使っての観光、それから観光教育、そういうものがかなり行われているわけである。そして、最近では、自然再生法案、自然環境再生推進法案というのが今審議されて、間もなく通るだろうが、それの非常に大きな例として、環境省、国土交通省が、釧路湿原でやっているのがある。釧路川という川は、これ治水のために、蛇行している川を真っすぐにした。それをもう1回蛇行させるという自然再生を行っているわけである。これには地元の研究者やいろいろな人の意見の聞いているということである。ただ、話を聞くと、その川を自然に戻すことをやりながら、その上流では湿原を農地に変えようとしているという、非常に矛盾したことがこの中、同じ釧路湿原の中で行われているので、かなり批判的な意見も出ている。  実は、湿原の川というのは、蛇行するのも特徴だが、はんらんするというのが最大の特徴である。国土交通省が直線化した川を蛇行させるところまで戻したというのはすばらしいことであるが、決してはんらんをさせない。はんらんをさせるところまでいけるかどうかというのが、本当にその自然を再生するかどうかの分かれ目になるのではないかと思う。国土交通省にしてみれば、川をはんらんさせるというのはやったことがないんだろうと思う。  ラムサール条約では、締約国が登録地を決めなきゃいけない。1つ登録しなくちゃいけない。最低1個ですね。その登録地の国際基準というのがある。どんなのが国際基準になっているかというと、生物地理区内の自然度の高い代表的な湿地、それから同じような環境、同じような生物を持っている地域の中で、非常に自然度が高い場所なんだ。その地域を代表するような湿地、非常に抽象的な言い方であるが、例えば関東地方で言えば、渡良瀬遊水地のような湿地とか、尾瀬ヶ原のような湿地とか、あるいは三番瀬の干潟みたいな、その地域で非常に代表的、しかも自然度の高いというのはもう国際基準を満たしているということになるわけである。  それから、絶滅のおそれのある種、群衆を支える湿地。例えば、三番瀬には、ミヤコドリという鳥が──ユリカモメではなくてシギの仲間のミヤコドリというのが、非常に数が最近ふえてきている。ああいう絶滅のおそれのある種を養っているようなところは、国際基準を満たしているんだということである。  それから、生物多様性の維持に重要な種を支える湿地ということで、多くの種類を養っていけるような湿地は、これは国際基準を満たすということである。  それから、生活史上重要な、または悪条件の際の避難場所になる湿地、例えば魚の子供は干潟で、あるいは藻場で生まれて、そこで揺りかごの中で大きくなってから沖合いに出て、また大人になって戻ってきて卵を産むわけである。そういう揺りかごの時代を送る干潟というのは非常に重要なわけである。それから、何か悪条件のとき、台風の際に逃げ込むとか、山火事の際に逃げ込むとか、そういった場所にある湿地というのも、この国際基準を満たすというふうに考えられている。これは私の資料の2枚目に書いてある。  それから、渡り鳥の基準というのがあって、定期的に2万羽以上に水鳥が生息する湿地、三番瀬だとスズガモという1種類だけで軽く2万を超えているので、当然国際基準を満たしている。  それから、水鳥の種の1%が生息する湿地。これ、なかなか鳥の数はわからないが、大まかな見積もりが出されていて、一覧表ができている。例えば、この鳥は東アジア地域に1,000羽しかいないというと、そのうちの1%、10羽が来る湿地は国際基準を満たすということになるわけである。  それから、魚である。こういうふうな魚の種がいる。その魚の種の生活史の1段階がそこで行われるそれから、湿地からの利益、生物多様性に貢献する、こういったところが国際基準を満たしているわけである。魚類の採食場所、産卵場所、稚魚の成育場、漁業資源の回遊経路となる湿地、これまさに三番瀬そのものである。こういったものは国際基準を満たすというわけである。  そして、こういう国際基準を満たした湿地を登録する際にはどんな手続がいるのかというと、まずはその該当する湿地の国際的な重要性の評価というものが行われる。これは登録地の国際基準を満たすかどうかということである。このあたりのお話は、皆さんの手元にお渡ししたラムサール条約ハンドブックのコピー、この中に書いてある。それを要約したものである。ちなみに、このラムサール条約ハンドブックというのは、サブタイトルにあるように、ラムサール条約登録湿地を抱える市町村担当職員のための、そのためのハンドブックということで、ラムサール条約登録湿地関係市町村会議がつくっている。この会議、どこにあるかというと、現在は習志野市がその任に当たっているので、習志野市役所には、まだこの報告書、結構厚いものであるが、50〜60ページあったと思うが、あるので、ぜひ事務局の方、入手されたらよろしいのではないかと思う。  このハンドブックに、環境省の資料が引用されて書いてあるわけである。国際基準を満たすかどうかをまずチェックする。国際基準を満たす湿地であることがわかったら、国内法による湿地保全の担保をしなければならない。すなわち、法律でもって、何かの保護区にしなければならないということである。ラムサール条約では、登録湿地に関しては、その国の法律でもって保全することが義務付けられているので、日本では、鳥獣法に基づく国設鳥獣保護区特別保護地区、これが1つである。それから、自然公園法に基づいて、国立公園あるいは国定公園にして、その特別地域にする。それからもう1つ、自然環境保全法による自然環境保全地域というのがある。原生自然環境保全地域である。その3つの法律で持って、国内法で保全しますという担保がなされるわけである。  一般的には、この鳥獣保護区、国設鳥獣保護区の中の特別保護地区にすることで、国内法で守られるということになるわけである。そして、それが決まると、所在地の都道府県及び市町村の内諾を得るという作業に入る。表向きは、こういう順番であるが、実際には、この辺はもう行きつ戻りつである。重要なのは、やはり所在地の都道府県及び市町村の了承が非常に重要になるので、これを取り付けるために、何度も何度もアンダーグラウンドで、あるいは表で話し合いが進められるわけである。  その際に、海あるいは湖等で、漁業権が大概問題になってくる。そうすると、ラムサール条約に登録するために保護区にしても、漁業権には何の影響もありませんということを一生懸命説明して歩くわけである。これは、国立公園の特別地域でも同じで、漁業を制限するようなものはできない。これは残念でもあれば、ある意味では当然でもあるということである。
     おもしろいことに、その特別地域にするときには、最初からその地域で有用な漁業種は全部外す。そうしないと、納得してもらえないということがあるからである。鳥獣保護法だと、魚は入っていないので、実は関係ない。鳥とけものだけである。それで、地元の都道府県及び市町村がOKを出すと、次に登録に関する環境省の公文書による意見照会という公式な動きがここから始まるわけである。  このあたりの流れは、このハンドブックの9ページにある。環境省からの問い合わせに関して、都道府県、市町村から同意書が提出される。それが官報に告示される。それをもって、外務省がラムサール条約事務局と連絡する。スイスにあるラムサール条約事務局。そこへ外務省から書類を提出していく。そうすると、条約事務局、スイスでは、それに基づいて登録簿へ記載する。登録簿へ記載した後認定証が交付される。それが3年に1回のラムサール条約会議で行われるわけである。そこに出席した首長さんは鼻高々である。そこで認定証をもらったところを写真に撮って、大概広報で流すわけである。  じゃあ、その国設鳥獣保護区という1つの国内での保護の担保が必要であるが、国設鳥獣保護区にするためには、どんな手続があるのかということがある。実はこれも同じようである。ラムサール条約に内諾を求めていくのと同じような手続があって、まずは地元市町村の意見を聞いて、保護区にしていいかどうかという話し合いを行う。保護区にするとこんな制約がある。いやこれは大丈夫だというようなことを言っていって、公聴会を開いて利害関係者を呼んで意見を出してもらって、そして最終的に決めていくということになる。  国設鳥獣保護区というのは、国設鳥獣保護区の中でも特別保護地区というのはどういうところかというと、国際的または全国的な鳥獣保護の見地から、その鳥獣の保護のため重要と認める地域という、こういう場所である。ちょっと抽象的であるが、4つの種類があって、大規模生息地、これは大雪山とか白山とか霧島とか、そこが指定されているが、イメージとして大体おわかりになると思う。非常に大きな森林が残っていて、いろんな鳥やけものがいるような場所。それから、集団渡来地。風蓮湖、伊豆沼、谷津干潟渡り鳥がたくさんやってくるところである。集団渡来地。それから集団繁殖地。天売島、三貫島、男女群島など、これは大体離島で、海鳥がたくさん繁殖しているところになる。それから、特定鳥獣生息地、釧路湿原のタンチョウとか、鳥島のアホウドリとか、西表島のイリオモテヤマネコとか、こういったところが特別保護地区になるわけである。ですから、三番瀬の場合は、谷津干潟と同様に、渡り鳥の集団渡来地ということで、国設鳥獣保護区の基準を満たしているということになるわけである。  この国設鳥獣保護区になると何ができなくなるかというと、実はほとんどできる。鳥獣保護区自体が、残念ながら鉄砲であるいはわなで鳥獣をとっちゃいけないというのが趣旨なので、なかなか実際に野生鳥獣のためになる施策というのはやりにくい状態で、特別保護地区でやっちゃいけないことというのは、環境大臣の許可を必要とする行為である。だから、やっちゃいけないことはない。許可さえもらえば、何をやってもいいということになる。それは大概、私有地があるためである。私有地があるから、そこの主権を侵害することはできないから、許可を求めればやっていい。  どんなことに許可を求めなければならないかというと、建築物その他工作物の新築、改築、増築、これをやるときには許可を得なさいということである。  それから、水面の埋め立て干拓、それから牧畜の伐採、木や竹を切ること、それからもう1つ、鳥獣保護に影響を及ぼすおそれのある行為をする。これはもう何でも入っちゃうわけであるが、ただしそれは政令で定めるから、定められてなければいいわけである。だから、特別保護地区になっても、現状のままで置いておく分には、何ら主権を侵害するものではない。  ですけれども、土地所有者から見ると、こういう制限もわずらわしいと感じる人が非常に多いみたいで、保護区を設定する場合には反対意見が必ず出るわけである。特に、農林業被害が問題になるので、そこのところの対策をきちんとしない限り、なかなか保護区に賛成してもらえないというのが現状なわけである。  そして、地元の利害関係者の同意を得て、地元の市町村、都道府県の了承を得て、国設鳥獣保護区になって、そして晴れて国際舞台に登場する、ラムサール登録地として。これは日本地図だけであるが、世界じゅうのリストに載って、スイスの条約事務局で情報として出る、ホームページで閲覧できる、全部英語なのがちょっと問題であるが。  日本では今13カ所、今回北海道の宮島沼と、名古屋市の藤前干潟が登録されたわけである。大体この地域において、それぞれの地点でラムサール条約に登録したことを使って、どうやって自然を守りながら野生生物を守りながら地域振興に役立てるかということが、いろいろ工夫をして行われていくわけである。  釧路湿原のようにでっかいところだと、やはり観光。飛行機でやってきて、貸し切りバスで動くような人たちにも対応する。  それから、小さなところ。例えばウトナイ湖とか厚岸湾、小さなビジターセンターをつくって、個人が、あるいはグループが、あるいは小学校1クラスぐらいがやってくるものの環境教育に役立てるという活動が行われていくわけである。  皆さんは、釧路湿原と厚岸湖をご覧になったということで、北の方の広いラムサール条約登録地のイメージというのは大体ああいうものだというわけである。日本で一番小さいのは、ここに金沢市のそばに片野鴨池というのがある。ここの面積は、10ヘクタールぐらいである。カモが昔から、カモとガンが実は渡って来るところで、狩猟をしていた場所である。猟区だったわけである。藩政時代から、殿様がそこでカモやガンを捕まえることが侍の訓練になるということで、ずっと奨励していたわけである。その場所をラムサール登録地にして観察者を置いて、一般の方々がそこへやってきて、楽しんだり勉強したりする、そういう施設になっているわけである。谷津干潟も同じぐらいの規模、面積はもっと大きいが、観察者の仕事としては、大体似たような役割を演じているわけである。  ラムサール条約に登録して何がメリットなのか。これはやはり1つは、国際的に重要な湿地として認知され、世界に知られることになる。地域から自然と文化を世界に発信することにより郷土の誇りになる。どちらかというと精神的なものが非常に大きいんだろうと思う。これも私の資料の2枚目に、メリットとしてメモしてある。  それから、環境の保全と賢明な利用を図るため、国際水準の保護管理計画が立てられ、将来にわたっての保全が可能となる。これはまじめにやればという話であるが、国際条約で、こういう湿地を保全するためには、こんなマニュアルでこういう方法でというのがあるので、それをきちんとやっていくことによって、三番瀬なら三番瀬の環境を将来にわたって持続的に利用することが可能になるわけである。ところが、何もしなければ、そのまんま。周りからじわじわ汚染されてくると、だんだんだめになってくるということになるわけである。  それから、やはりその保全をする、それから賢明な利用をするということなので、それを盾にとって、漁業の振興をきちんと図っていこう、こういうのが大義名分としてできるわけである。そしてやはり、その干潟というところ、あるいは浅い海辺は、漁業生産高がどれだけ大きいか、渡り鳥がどのくらいやってくるかが、まず豊かさの象徴になるから、この2つでその湿地の豊かさを図っていくことができる。ただ、渡り鳥と漁業というのは大概どこでも対立しちゃって、漁師の方は鳥なんぞいない方がいい、保護区なんか絶対嫌だという人が多いが、鳥のいない干潟というのは、底生生物も少ない、魚も少ない、貝もとれない、残念な貧しい干潟である。ですから、漁師の方々は渡り鳥を追い払いながら魚をとるぐらいのやり方の方が、多分幸せなんだろうと思う。  谷津干潟のようなビジターセンターをつくったり、一種の野外博物館として活用が図られるというメリットがあるわけである。国と県と市でお金を出し合って、施設をつくって、専門家を雇ってガイドをしていく、地域の環境教育に貢献していく、そういうところである。学校の総合学習、あるいは公民館での生涯学習、そういう面が活用される。場合によっては、海外との姉妹湿地提携をやったり、市民同士の交流をやったり、市民の活動を海外に広げていく、目を外に向けていく、こういう効用があるわけである。そして、自然に負荷をかけない範囲、それから過剰利用にならない範囲でアトラクションがいろいろできるだろう、バードウオッチングをしたり、釣りをしたり、シーカヤックをやったりヨットを使ったりという、そういう観光ができるだろう。  それから、三番瀬の場合には、やはり湾岸・臨海部からの視点で何か新たな産業ができないかということである。これは、もういろんな立場から検討した方がいいと思う。バードウオッチャーは、やはり鳥を見るのが一番大事というか、そのことを考えるし、干潟大好きな人は干潟はそのままにしておいてくれと言うかもしれないし、湾岸で何か設けようと思ったら、やはりフィッシャーマンズワーフをつくんなきゃと思う人もいれば、ベネチアみたいにゴンドラを浮かべて水路をつくろう。第2湾岸もどうなるかわからない。先手を打って、第2湾岸用地は全部水路にしてゴンドラを浮かべようという人もいるわけである。そうすると、やはり新たな観光の名所として人が集まるかもしれない。そのためには、東京湾の江戸前のおいしい魚が食べられるという前提がないとなかなか難しいかもしれない。フイッシャーマンズワーフはできたが、輸入した魚ばっかりじゃ魅力は余りないわけである。そのために、やはり三番瀬の環境を再生して、そこで魚がとれる、東京湾の魚がとれるということが大事になってくると思う。  ラムサール条約では、3年に1回会議を1週間もやって何をやっているのかというと、いろんな決議とか勧告がなされるわけである。これ、山ほどあって、なかなか読んでいても大変であるが、実はここにちゃんと書かれている。  例えば、湿地の生態学的特徴を維持するための水資源の配分と管理に関するガイドラインというのがちゃんとあるわけで、日本は1つの国で海に囲まれているから余りわからないが、ヨーロッパの方に行くと、国境を川で接している。その川を登録して、その川をお互いどうやって利用するんだということになると、ちゃんと取り決めしないとけんかになってしまうわけである。例えば、湿地復元の原則とガイドライン、これは今回スペインでの目玉、我々が目玉だと思っているのは、一致復元の原則と、そのガイドラインというやつである。これをかなり期待していて、その人口干潟をつくるにしろ、あるいは直線化した川を曲げるにしろ、乾燥した湿原をもとに戻すにしろ、どういう手法でやっていくのかというのが、ここで1つのガイドラインが出されるわけで、こういったものを利用して、ラムサール登録地あるいはそれ以外の重要な湿地をマネージメントしていく、そういうヒントがこの国際条約の勧告とか決議の中に含まれているわけである。  湿地保全と地下水利用を両立のためのガイドラインって、切実な問題である。湿地を守る、その地域の地下水との関連でどうするか。地下水をどんどんとっちゃうと、湿原も危なくなっていく。お互いどうやってそれを合意を結んで、どうお互い賢く利用していくか、そのための手法をアドバイスしてくれるわけである。  それから、大事な、これは1回前の決議であるが、コスタリカで行われたとき、湿地の管理への地域社会及び先住民の参加を確立し、強化するためのガイドライン、湿地の管理には地域社会の人々と先住民を必ず参加させろというのが、ラムサール条約あるいはその他の国際条約の中でもう必ずうたわれるところである。それは、逆に言うと今まで政府とか企業とかが地域住民、先住民の意見を聞かないでやってきた湿地管理はうまくいかなかった、これの裏返しなわけである。そこに住んでいる人々の知恵を借りて、その地域の川、湖、干潟をどうマネジメントしていったら、その地域で一番利益が得られるのか、それを考えなさいということである。賢明な利用はどうしなさいというのも、ちゃんと書いてあるわけである。それから、ラムサール条約におけるNGOの役割というのはこんなもんなんだというのも、ちゃんと条約の勧告で言われているわけである。  そして、一番三番瀬と関連してくるのは、99年にコスタリカで行われたときに、潮間帯湿地の保全と賢明な利用に関する決議というのが出されている。潮間帯湿地とは、干潟とか、マングローブとか、そういった潮の満ち引きのあるところの湿地である。日本ではほとんどが干潟になるわけである。この決議では、干潟や藻場、塩性湿地、マングローブなどの湿地が、漁業、生物対応性、海岸、水質の保全や教育、レクリエーション利用など、大きな社会的環境的価値を持っていることから、締約国に干潟等の焼失と保全状況を記録し、報告し、悪影響を与える政策を見直し、長期的保全策を導入するよう、こういうふうに求めている決議である。干潟をちゃんと守りなさい。ただし、失われた干潟の面積を報告しなさいということもあるので、全面的に埋めちゃだめと言っているわけではない。必要なところは埋めてもしょうがないけれども、それはちゃんと報告しろということである。  それから、湿地復元の原則と指針。これはちょっと細かいが、重要なところは、湿地を復元する際には、そこの湿地だけを考えるな、集水域レベルで考えなさい。どこから水が来てどこへ流れていくのか、それをきちんと考えなさいということである。それから、水資源の配分をちゃんと考えなさい。どこから独占したり、どこかがもらえなかったりとか、そんなことではだめなんだよと。そして、計画には、地域共同体を参加させるべきである。そこに住んでいる人が最初から入ってきて、意見を言う場が必要なんだ。それから、復元の約束と、価値の高い自然湿地を引き換えにすることは回避すべきである。それから、良好な湿地があるのに、それをつぶす理由として、新しく人口湿地をつくるから、こっちつぶすねということは避けなさいということである。それから、長期間管理する必要があるということ。それから、融通のきく管理原則をとらなければいけない。ですから、縦割り、予算割、年度割でやっちゃいけないということである。2年にわたってもいいじゃないか、他部局にわたってもいいじゃないか。そうしないと湿地は管理できないということである。  それから、いろいろあるが、まず目標をきちんとしなさい。それから到達基準も最初から決めておきなさい。目標に向かって順番に手を打っていって、この段階ではこういう目標を達成しましたと。例えば、ある干潟を復元する際に、10年計画でやろう。じゃあ1年目には、湿原を復元するときには1年目には草がまばらに生えるようにすると、2年目にはそこにこういう種類の草が生えている、5年目にはこういう野鳥が住み着くという到達基準を設定して、最終的なゴールに持ってきなさい、そういうガイドラインである。  そこで大事なのは、良質の自然湿地は、復元された湿地では置き換えることができないということである。やはり、先ほど人口干潟の話をしたが、お金はかかるが、働きは自然の干潟にかなわないということである。いかなる湿地復元計画においても、最も重要なステップは、非常に明確にかつ具体的な目標、目的、及び到達基準をつくること。ちゃんと目標を持ってやりましょうということである。そして、そのためのフローチャートがあるわけである。計画をつくる。こうやってみる、ああやってみる、成功するというところまで行くためには、途中で何度もチェックをしてフィードバックして、手を打ちながら、そして柔軟にやっていく。湿地の復元というのは、こうやったからこうなるという因果関係が余り明確じゃない。そこを柔軟に、こうやった結果うまくいかなかったら次の手を打ってみよう、そういうふうにやっていこうというわけである。  そして、ラムサール条約に登録される。されるとどうなるかというと、環境保全計画をつくって賢い利用をしていきましょうというのが、登録地の活動の中心になるわけである。やっていくことは、1つは、地道にこういうことが行われるわけであるが、調査研究をやっていく。そこでは、湿地や野生生物、人の利用についてモニタリングをしていく。観光保全、そのモニタリングに基づいて、環境悪化の防止、あるいは復元・再生などをやっていく。人の利用が多すぎるようであれば、利用をちょっと減らそうとか、そういうような保全をやっていくわけである。  それから環境教育、観察資料、ビジターセンター運営など、このようなことをやっていく。皆さんが行った釧路湿原の例とか、お隣の谷津干潟のビジターセンターのやっていること、大体こういうことが基本になるわけである。  そして、国際交流が行われる。姉妹都市提携とか、国際会議を導入したりする。そのようなことがラムサール条約登録地では行われていくわけである。  それから、自治体、省庁間交流というのがある。これは、ラムサール条約登録湿地関係市町村会議というのが1つある。これは先ほどのラムサール条約ハンドブックのようなものである。その中に書いてあるようなことである。それからもう1つ、ラムサール条約推進国内連絡協議会というのがある。上が市町村レベル、下が国レベルになる。それから、地域交流としてビジターセンターを支えてくれる友の会、あるいはそういう組織ができてニュースレターを発行する。掲示板をつくる。そういう活動が行われていく。定期観察会が行われたり、ボランティアがたくさん来てくれるようになる。その地域での住民参加の地域交流が非常に活発になってくるわけである。そして、その中のラムサール条約登録湿地関係市町村会議、ちょっと長くて大変であるが、要するにラムサール登録地を持っている市町村の連合があるわけである。これはどんな目的でやっているかというと、情報交換、協力の推進、お互い情報交換して協力しましょう。地域レベルの湿地、保全活動の推進をしましょう。それから、湿地の適正な管理をやっていきましょう。こういうのが目的ですね。こういう目的を実現するために、どんな事業を展開しているかというと、湿地保全管理に関する研修会をやる。それから、条約関連予算獲得の陳情請願をやる。これが事業の1つである。それから、登録湿地拡大へ支援する。条約関係の事業へいろいろ協力をやっていこうということである。この条約に基づいていろんな予算を獲得するための陳情請願というのが、結構大きな仕事になっているのかもしれない。  それからもう1つ、その市町村会議で、定期的に会議を開く。最近では、ほぼ毎年のように年に1回、どこかラムサール条約登録湿地を有する市町村において会議が行われる。その会議で、大体どんなことが行われているかというと、まず記念講演があったり、シンポジウムがあったり、その地域で湿地保全にかかわっている人たちの記念講演とかシンポジウムがあったりするわけである。そして、登録地がそれぞれの登録地が今どんなことになっているか、どんな活動が行われているのか、そういったことが、それぞれの地域から報告される。それから、ラムサール条約会議に参加したこと、環境省から人を呼んだりして、報告をしてもらう。それからこの会議の予算決算事業報告なんかをやる。それからエクスカーションで登録地を見て歩くというのが大体のパターンになっているようである。事務局は、会長を担当する市町村ということで、現在は習志野市が事務局をやっているということになる。規約も、先ほどの資料につけておいた。  それからもう1つは、国内連絡会議である。これはラムサール条約の勧告の中に、締約国は国内委員会をつくりなさいというのがある。ラムサール条約を推進するための国内委員会をつくれということで、それに基づいて外務省、文化庁、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省が政府側のメンバーとなっている。  それからもう1つ、国際湿地保全連合日本委員会。これはNGOであるが、そこに加わっている環境NGO、これが構成員の1つとなっている。それからもう1つは、登録湿地関係自治体、その中の幹事市町村がメンバーになる。登録湿地のある自治体の幹事さんとそれから環境NGOと政府機関、この3つが構成員になって、会議を開催するわけで、主な議題は、国別報告書の作成。これはラムサール条約のたびに、締約国がそれぞれの国の湿地保全がどうなっているかというのを報告書をつくって出さなければならない。それをみんなで意見を出し合うというような会議である。ラムサール会議の直前になると、大慌てでこれは呼ばれて、厚い報告書が出てきて、意見をと言われてもまだ読んでないよという感じである。最近は、もうホームページで環境省が事前に公開するようになったので、NGOが必死になってそれを読んで意見を言っていくという非常にいい方向になってきた。昔は日本は出さなかったことがあったようである。  ラムサール条約というのは、ラムサール条約の精神は、賢明な利用、賢く利用するんだということで、もともとは水鳥の生息する湿地を守りましょうということが中心だったが、会議を重ねていく間に、だんだん湿地の生物多様性を守るんだと、湿地全体を考えていこうということになった。そしてさらには地域住民参加による水系の保全ということになってきている。ですから、単独の湿地を守るのではなく、その湿地がつながっている水系、それから森、川、海、この一連の流れを考えて、それを賢く利用していく。その際には必ず住民を参加させなさい、こういうふうに条約の流れというか、発展段階があるわけである。これを干潟の保全、あるいは干潟の再生ということから考えると、最初はやはり渡り鳥を守ろうということで、渡り鳥の飛行ルートを守っていこう、地球の視点から見て国際協力でやっていこう、それがだんだん、森、川、海のつながり、国土から見る、そこでは流域管理、すなわち水系管理をやっていかなければいけない。それから沿岸については、統合的沿岸管理ということで、東京湾なら東京湾全体を見て、その中での三番瀬の位置を考えて、いろいろな沿岸利用を兼ね合わせて、トータルなところから見ていこうというふうになってきたわけである。そして、地域住民の視点、情報公開をして、住民を参加させて、利害関係者の合意形成を図っていくんだ、こういうふうにだんだん住民参加が非常に重視がされるようになった。合意形成というところにその重きを置くようになったというふうに流れがあるわけである。  そういう流れの中で、各国ではそういう登録地を幾つもふやしていこう、そして登録地に関しては、責任を持ってその国が守っていこうとしているわけである。三番瀬もいずれは登録地になって賢い利用がなされていく。そしてそれが1つは世界に対する貢献になるわけである。日本では、三番瀬という干潟をこういうふうに保全し、利用して、住民のために役立っているんだ、そういうメッセージを出していくことが日本の三番瀬をめぐる市町村の国際貢献になるわけである。こうやって、三番瀬の風景を見ると、実にいい風景である。ラムサール条約というのは、かなり幅の広い条約で、原生的な湿地から人間がつくった湿地まで、すべてを含んでいる。三番瀬もこのあたりは人工的に砂をまいたところだし、その向こうには埋立地があって、もうビルが建っている。そしてここでは潮干狩りもやれば、漁業もやれば、バードウオッチングもやる。非常に人間の利用の密度の濃い環境なわけである。これを賢く利用していこう、将来に伝えていこう、持続的にやっていこう、まさにそのラムサール条約の精神をそのままあらわすようないい環境である。ですから、やはり船橋から世界に発信していくという意味では、ここの三番瀬をラムサール登録地にして賢く利用する、これは非常に地域社会にとって非常に有意義な、そしてやりがいのある仕事になるのではないかと考えている。  長時間にわたり、ご清聴ありがとうございました。(拍手)    …………………………………………… [意見交換] ◆さとうももよ 委員  つい先日も、ミヤコドリが何と60羽もいるという話を聞いて、国際的にも認められる状況だなと思うが、今お話聞いていると、やはりラムサール条約登録まで時間がかかりそうだということである。目安として、皆さんどれくらいの時間を待つのが普通か。 ◎花輪伸一 先生  ケース・バイ・ケース、地域地域でいろいろあって、例えば藤前干潟は1999年1月に、もう埋めないんだということになって、それからじゃあ代わりのごみ処分場をどうするかとか何とかで1年ぐらいたって、大体2000年になってからラムサール登録地にするんだと、手続を始める。あと1年しかない、間に合うのというのを間に合わせちゃった。環境省、かなり力技を使ったんだと思うが。  ラムサール登録地にするというふうに皆さん合意ができればあとは手続だけであるから、これはもう毎週のように会議を開いたり公聴会をやったり、港湾管理者の長のサインをもらったりとか、走り回ってやってしまう。  それから、残念ながらなかなかいかないというのは、例えば沖縄の石垣島に網張というところがあって、ここは環境大臣が視察をして登録地にすると言っているが、まだならない。どうも、沖縄県が反対している。そこを登録地にしたら、泡瀬干潟はどうしてくれるんだ、その先の方にある普天間飛行場移転先のジュゴンの生息地の海はどうしてくれるんだと言われたくないから、知らぬふりしているといううわさもあるが。ですから、地域でもう合意がとれれば、あとは走ることは早くできるだろうと思う。 ◆佐藤重雄 委員  先ほど、再生を引き換えにしてはいけないというお話があったが、引き換えにしてはいけないという判断する指標はどうか。例えば、三番瀬の、実は一部は過去に手を入れているという1つの印がある。だったら、引き換えも、現在も過去に手を入れたところだから引き換え可能じゃないという論立ても成り立つと思うが、その辺のところ、自然保護団体とかはどんなふうに評価をして、比較するのか。 ◎花輪伸一 先生  数値的にどうこうというのは、恐らくないんだと思う。そして、ラムサール条約の中では、例えば登録地に関して、やむを得ず開発しなければならなくなった、その際には、開発して失われるものと同等の湿地を新たに登録しなさいということである。代替的なものをやりなさいということである。ただ、その面積が同じであれば代替になるかというと必ずしもそうではなくて、人工干潟は小さいものはとてもじゃないけど大替地にはなり得ない。同じ機能をトータルとして求めるのであれば、何十倍かの人工干潟をつくらないと、自然干潟にはかなわないということになってしまう。それから、藤前干潟の時には、名古屋市は人工干潟を造成するから、現存の干潟は処分場にしますというところまで、実際には追い詰められたわけである。最初は人口干潟なんか考えていなかった。でも、何とか埋め立てたいから、人工干潟をつくると言ったら、環境省はそれに対して真っ向から否定した。これは同じ言い方をしている。現在ある良好な干潟を壊して、まだ技術的に確立されていない人工干潟で置き換えるのは無謀であるという言い方をしている。ですから、やはりそこは価値判断だと思う。そしてやはりいろんな人の意見があるから、それを戦わせて、みんなが納得するところで落ち着けることになるんだろうと思う。──うまい答えでなくてごめんなさい。 ◆佐藤重雄 委員  何となくイメージはわかった。 ◆津賀幸子 委員  先ほどから、一番冒頭に、干潟、自然が非常に開発で失われてきたということで、私たちもそれを実感しているが、今ちょうど国会の方で、自然再生推進法、これが間もなく通ってしまうのではないかと言われている。今まで開発をしてくるときに、どうしても公益のために開発をするんだという、そこが最大の開発をされてきた理由になっているわけであるが、この新しい法律の中にも、この部分は抜けていないように思う。その辺については、確かにまた自然を再生すると言っているけれども、それこそ先ほどの釧路ではないが、新たな形を変えた、いわゆる開発というところが非常に心配するが、それについては、自然保護団体の皆さん方はどんなふうにお考えになっているか。 ◎花輪伸一 先生  自然再生推進法案の第6条に、公益の問題があって、公益に配慮しなければならないということがある。例えば、これ洪水調節のためのダムとか、いろいろな公共事業の目的となるもの、例えば道路をつくる、交通渋滞緩和のために道路をつくって橋をかけなきゃいけない。だから、そっちの方が優先だということで、実は今まで環境をさんざん改変されてきてしまったということで、環境団体の中でも、WWFとか野鳥の会とか日本自然保護協会、あるいはそれと共同歩調をとるようなNGOは、ほとんどこの6条は廃止すべきであるというのが、主張である。それは、公益で持ってすべての面が環境を修復しよう、再生しようというものの目的がねじ曲げられてしまうという心配があるからである。  そして、いつもこの公益の例に出されるのが、霞ヶ浦でアサザ基金という環境NGOが、霞ヶ浦の護岸の自然再生をやっているわけである。それには、アサザという植物を植えることによって、それが密生して波を穏やかにさせて、そこに魚が卵を産めるようになっていく。そのアサザを育てるのが地元の小学生たちである。種をもらって育てて、自分たちが植えてくる。そのアサザを植える前に、枝打ちなんかした粗朶を集めて、それをまず仮の防波堤をつくる。これは地域の森林組合に仕事ができる。そういう市民型の公共事業として、国土交通省からも予算をもらってやっているわけであるが、その同じ国土交通省が、霞ヶ浦の推移管理を元に戻すということを言っている。アサザが育たなくなる。その推移調節をするのが公益であると国土交通省は言っているわけで、その公益、冬場に水をためておいて、春に流していくという、この公益の前に、護岸の修復、自然再生はだめになってしまうわけである。これはもう自然再生の趣旨でも何でもない。同様のことがすべて公益で、洪水調節のため、渋滞緩和のためとやられたんでは、果たして本当の意味での再生ができるのかという指摘が非常に強く出ている。  それから、今おっしゃったように、今までの自然破壊型公共事業に関する反省が全然なされていないまま、いわばもう環境破壊型の公共事業はもうやる場所もお金もないから、じゃあ次は自然再生の公共事業でもうけようという手のひら返しただけじゃないかという、そういう意見も不信感も非常に根強い。そして、その環境運動をやっている地域住民の方というのは、大概手弁当で、土日に給料のかなりのお金を使っちゃって、持ち出してやっている人たちで、どちらかというと、清く貧しく正しく活動していきたいという人たち。ですから、やはり原則というか、基本的な考え方を非常に大切にしたいというふうに思っている方々である。そういう方々の目から見ると、非常にこの自然再生法というのは、問題ありだと。ここで慌てて成立させなくてもいいのではないか。もっとじっくり議論をしてはどうかという意見が少なくないわけである。廃案にせよという強い意見も出ている。  ただ一方では、これまで国土交通省がやってきたような河川の再生、多自然型工法あるいは近自然工法というものを導入してきた環境NGO等はむしろこれを歓迎しているわけである。しかも、中にはこれがビジネスチャンスだと考えているNGOも恐らくいるんだろうと思う。そして、さらにはその土建の業界が、恐らく彼ら自身でNGOをつくり始めて、そこが自然再生の現場に相当出てくる。そうなってくると、これはその地域で昔から自然を守り育てようとしてきた人たちの考えとは対立するのではないかという、そういう心配が非常にあるわけである。  ですから、環境NGOの中に、その分裂というか階層分化というか、自然再生法によってもうけようという団体と、それじゃあ自然は再生できないという団体、まずは保全ありきで再生はその後なんだという団体、その間にちょっと溝ができてくる心配もあるので、我々自身は非常にこの法案を心配して見ているわけである。ただ、もう国会の勢力から見たら、多数決で通っちゃうのはもう明らかなので、反対だ、廃案だと言っていてもしようがない。少しでもいい、役に立つ法律にするためにはどう改正してもらったらいいのか。附帯決議はどうしたらいいのか。そういうことをいろいろ議論をしているところである。 ◆津賀幸子 委員  今、三番瀬の保全ということは、とりあえずそういう方向が出てきて、円卓会議に預けられているわけである。その中で、24日に中間のまとめの案が出てきたが、それを見ると、やはり今お話聞いたように、新たな藻場をつくって、干潟をつくってという、そういったこと、意見が一致しなかったという部分で出されているので、やはり国の法律ができることとの絡みが出てくると、非常に心配がされているが、その辺については、どんなふうに受けとめているか。 ◎花輪伸一 先生  三番瀬の円卓会議というのは、日本全国でも非常に進んだ意義のあるやり方だと思う。ただ、非常に難しさ、困難さもあって、利害関係者が非常に多過ぎる。頑張ってやってはいるが、円卓会議の他方では、国土交通省、環境省が東京湾再生のための作戦をいろいろ練り始めたり、別途行ったりしている。円卓会議でいろいろお話はされているけれども、実際の漁業権の問題とか、あるいは地権者の方々のこれからの再開発の問題とか、非常に大きな問題が上がってこないようなところがあって、それから第2湾岸もどうするかという問題が上がってこない。そうすると、この円卓会議でのまとめどころ、落としどころがどこになるのかなというのは非常に見えにくくなっているな、その辺心配ではある。住民から委員を選んで話をする方式の円卓会議というのは、非常にこれ有効だと思う。このやり方は正しいと思うが、ただやって来た方々が利益代表者の面が非常に強くなってしまった。ですから、漁民代表という方々が実は漁業組合長、地域住民代表という方々が自治会長ということになってくると、それぞれの属している社会の利益をそこへ持ってきて、自分の利益を主張するようになってくる。環境NGOは、集まって、その中から代表を選んだが、自分たちはあのNGOとは関係ないというNGOもあるわけで、これも必ずしも一枚岩ではないということで、その辺どうしたらいいかという案はまだよくわからないが、このままハッピーではいかないだろう。何かもっとみんなで考えていく知恵を出し合わなければならないだろうという感じは持っている。    ─────────────────      [参考人理事者退室]         15時53分休憩         16時10分開議 △次回の委員会について ○委員長森田則男) 特別委員会が発足して約1年2カ月が経過し、今回まで、参考人からの意見聴取、現地視察等を含め、青潮対策、ラムサール条約など、三番瀬についての調査研究活動を行ってきた。来年の3月定例会には報告書を提出する予定なので、さきの委員会でご協議いただいたように、来年1月、2月の委員会では、報告書を作成していきたいと思う。  そのため、次回の委員会では、報告書に掲載する皆さんの意見について整理するとともに、報告書の内容についてご協議いただきたいと思うが、いかがか。 ◆佐藤重雄 委員  今この文章、それぞれを出して、それでつき合せるという、その一致できるもの、あるいはもしかしたら一致できないものもあるかもしれない。ほぼ一致できるかなと期待はしているが。そういう点もあわせて、どこかで報告書の内容をお互いに検討し合うというのが必要だと思うが、その辺の手順はどうされるのか。 ○委員長森田則男) これは今、皆さんにお配りしてあるが、12月の定例会中に事務局に提出いただく。複数の人数を出している会派の方は、代表の方がまとめて提出されても結構であるが、そういう形で、12月議会中に提出していただく。そして、よければ、1月の日程を決めていただいて、もしまとまらなければ委員長、副委員長に12月議会中に持ち回りで日程を調整させていただきたいと思う。1月の委員会に、皆さんの出された意見をまとめたものを皆さんに見ていただいて、その中で調整をしていきたい、意見交換をしていきたいと思っている。 ◆池沢敏夫 委員  報告書の原案が出来上がって、その出来上がったものに対する意見なのか、それに載せるための意見を書けというのか、はっきりしていただきたい。 ○委員長森田則男) 今まで勉強してきて、当然ラムサールに向けての勉強、委員会であったので、それに向けての皆さんの意見、それぞれの個人の意見なり会派の意見を提出していただきたい。それをもとにまとめて、報告書に掲載する内容にしていきたい。 ◆池沢敏夫 委員  今まで、非常に有意義な勉強をしてきた。本当にいい勉強ができたが、僕、最初に会議を開いたときに、進め方として、勉強していくことは大切なことだけれども、勉強だけで終わったのでは、この委員会の目的が、調査して研究していくことは大切だけれども、最後に委員会として、こうあるべきだというのが欲しい、そういう議論の場が欲しいと申し上げた。この紙面を提出することで、お互いにディスカッションする場は設けないのか。 ○委員長森田則男) それは1月にやる。 ◆池沢敏夫 委員  それを受けてやるのか。先に出してから。 ○委員長森田則男) ここに、意見・要望等についてという形で書いてあるが、先日今までの本委員会の皆さんの意見を、パソコンで委員会記録を見ながら、池沢委員からそういう話も出ていたのはわかっている。そういう中で、あと12月議会中はできないので、1月2月、実際は2カ月しかないので、12月中に何しろこれを出してもらおうじゃないか。そういう中で、いろんな要望が出てきたらそれにあわせて1月2月でつくり上げようというふうに考えた。 ◆池沢敏夫 委員  非常に書きづらい。進め方に対する意見は書ける。それから、我々がこの2年間やってきたことに対する感想やら意見は書けるけれども。この三番瀬をどうしようかということは、やはりみんなの意見を聞いた上で自分が突出したり、はみ出ないように、やはり調整できるところをまとめることを願いながら書きたいなというのが、思いの中にあるわけである。 ○委員長森田則男) それが仮に自分がそこになくても、皆さんの要望なり意見が出た中で、1月2月に自分の意見を提出してもいいじゃないか。述べても。 ◆池沢敏夫 委員  非常に難しいね。 ◆佐藤重雄 委員  まず、池沢さんも僕も、多分出っ張ったのを書くかもしれない。池沢さんは出っ張らないかもしれないが。それを、やはりいろんな目で見て、この委員会の委員の目で見て、評価しあうというのは、僕はそれ、大切だと思う。皆さん、どうか。 ◆村田一郎 委員  意見・要望と書いてあるが、感想みたいなものも入ってもしようがない。佐藤委員がおっしゃったように、全部とりあえず出していただいて、それでもんでいけばいいことで、ここで制約することはないと思う。とりあえず12月議会中にいろんなのを出して、まとまれば、1月にその場があるわけであるから、まとまればいいし、まとまらないときにどうするかというのは、その場でまた意見交換していけばいいことだから、委員長のおっしゃった12月に出して、1月の委員会でやっていただいて、まとめにかかるということでいいと思う。 ◆佐々木照彦 委員  私も村田委員の意見と同じであるが、会派によっては3人うちも出ている。ですから、3人が1つずつ出すのではなくて、会派として……。 ◆佐藤重雄 委員  別々の意見なら別々に出してもいい。 ○委員長森田則男) 先ほど配付した用紙に会派の意見要望等を記入していただき、12月定例会中に事務局まで提出願いたい。  先ほど質問が出たが、委員を複数出している会派の方は、代表の方がまとめて提出されても結構である。また、パソコン等で作成される方は、データでも提出していただければ助かるので、よろしくお願いしたい。  日程については、1月中に午後から行うということで、12月議会中には持ち回りでお知らせするので、正副委員長に一任願いたい。 ◆佐々木照彦 委員  今までやってきたことについて一覧にしたものがあると思うが、項目で結構なので、事務局からいただければと思う。 ○委員長森田則男) 活動経過・今後の予定という資料を、後ほど事務局から渡していただきたい。    ─────────────────         16時19分散会 [出席委員]  委 員 長  森田則男(清新会)  副委員長  津賀幸子(日本共産党)  委  員  角田秀穂(公明党)        高木明(公明党)        村田一郎(公明党)        伊藤昭博(日本共産党)        佐藤重雄(日本共産党)        佐藤新三郎(市清会)        佐々木照彦(市清会)        櫛田信明(市清会)        小石洋(新風)        池沢敏夫(市民連合)        さとうももよ(小さな声ネットワーク)        長谷川大(ふなばし21) [参考人
     WWFジャパン自然保護室主任 花輪伸一氏 [傍聴]  菅谷企画部長   丹下企画調整課長(参事)   千々和企画調整課副主幹   深田環境部参事   住母家環境保全課長補佐   布施環境保全課主査 [議会事務局出席職員]  出席職員  小池議会事務局長        幸田議事課長  担当書記  高澤副主幹(議事第2係長)        岡副主査        我伊野主任主事...